プロジェクト紹介
それぞれの分野で発展してきた“予測”を融合したり共通点や相違点を見つけたりすることで、 新たな“科学”が生みだすこと。
それがこのプロジェクトの壮大なテーマです。
ゲリラ豪雨予測
ゲリラ豪雨を引き起こす積乱雲は、わずか数分の間に急激に発生、発達します。
私たちは3次元的に隙間なくスキャンするフェーズドアレイ気象レーダの特長を生かした立体的な「3D降水ナウキャスト手法」を開発しました。
30秒毎に得られるフェーズドアレイ気象レーダの観測データをリアルタイムに処理し、10分後までの予測データを算出することができます。
疾患の多様性理解と進行の予測
図は更年期障害の症状の軽重の組み合わせを統計物理学のモデルにより解析し、地形として表現したものでエネルギーランドスケープモデルと呼びます。
青から緑はエネルギーが低く安定で出現頻度が高い状態(谷)、黄色から赤はエネルギーが高く不安定で出現頻度が低い状態(山)を示しています。
地形はエネルギーの谷底(局所安定点)を囲む2個の領域に分かれています。
地形上での推移に基づいて、各患者の4ヶ月間の症状の推移パターンを分類できました。
エネルギーランドスケープモデルによる解析により、健康・疾患の多様性・個別性の理解が進み、新しい疾患分類や発症前状態の発見につながると考えられます。
さらに最適な介入タイミングの発見や治療効果の個別評価など個別化医療への応用が期待されます。
COVID-19
COVID-19の流行は私たちの日々の生活を大きく変えました。
様々な分野の研究者たちにとっても、新型コロナウイルスとそれがもたらす影響を理解し対抗するため、その知見を駆使することが求められています。
私たちの研究では、日々の入院者数、死亡者数、回復者数の観測を用いて、潜在的な無症候性者数および症候性者数を再帰的に分析し、同時に無症候性者罹患率に関するパラメータの推定を行っています。
機械学習とデータ同化のアイデアを融合させることで,より信頼性の高い予測を行うことを目指しています。
海洋環境
日本の近海は、豊かな漁場となる場所が多く、水産資源が豊富です。
しかし、実際に海を活用するのは海洋環境汚染とのトレードオフとなります。
私たちは、定期的に理研横浜付近から東京湾の海水を採取し、そこに含まれるアミノ酸、糖類、微生物のデータを詳しく分析し、蓄積しています。
そのデータに、近隣に設置している観測ブイで測定した海況情報と気象情報、そして海洋モデルによるシミュレーションを機械学習と組み合わせ、赤潮の予測システムを構築しました。
生命医科学における予測の問題に対する深層学習の応用
図は集中治療室のデータから敗血症の発症を予測するための再帰型ニューラルネットワークの基本構造の1例を示しています。
最終的な予測モデルはこのユニット6個の合議制でできており、極めて高い予測性能を示しています。
しかし深層学習をつかっている以上、この強力な予測モデルがどういう仕組みで判断を下しているのか人間には理解ができません。
そこでデータ同化など数理的手法を深層学習と融合させ、説明不可能な予測システムを説明可能に変えていく方法を探求していきます。
台風の予測
気象の予測はスーパーコンピュータを使った天気予報シミュレーションに基づいており、シミュレーションと実測データを融合する「データ同化」が予報の精度を左右します。
私たちは、ひまわり8号の10分ごとの赤外放射輝度データを、雲域も含めた全天候で数値天気予報に直接利用することに成功し、 2015年最強の台風第13号(Soudelor)の急発達の予測の大幅な改善や,2015年9月関東・東北豪雨の雨量予測の改善などを実現しました。
細胞内のシグナル伝達
細胞性粘菌の走化性シグナル伝達系の鍵となる分子であるPIP3は、走化性誘引物質の濃度勾配があると、その勾配に沿って細胞膜上に極性を形成することが知られています。
しかし、走化性誘引物質の刺激がなくても、自発的に非一様分布をランダムな方向に形成し、進行波などのダイナミックな振る舞いを示します。
このシグナル伝達系の数理モデルをデータ同化の方法と組み合わせることで、細胞の状態を推定する方法を開発します。